前職を退職し、1年以上経ちました。それから今までのあいだ特定の企業に転職はしていないため、フリーランスとして活動しているということになるでしょうか。
退職する際に、いわゆるマイクロ法人スキームを利用したかったため合同会社を設立しました。今回はそこらへんも含めてフリーランスと合同会社について書いていきます。

合同会社とは

2006年に施行された会社法によって新しく設けられた法人の形態です。馴染みのある法人といえば株式会社だと思いますが、合同会社も法人格を持つ立派な会社です。認知度的に株式会社のほうが信用を得やすいと言われるようですが、GoogleやAmazon、Appleなんかも実は日本法人は合同会社です。
株式会社に比べて合同会社は意思決定がしやすいのでそうなっているようです。ここらへんはググってもらえれば詳しく説明している記事があると思うのでそちらに譲ります。

フリーランスと合同会社

フリーランスは個人事業主(個人)ということになります。一方、合同会社は法人です。個人の所得は累進課税なので、住民税を含めると最大55%の税率がかかります。一方で法人はいくら稼いでも約30%ほどの税率で済みます。よく法人税は20%ほどと言われますが、実際には他に法人住民税などがかかってくるので法人実効税率は約30%になります。
ここで、30%未満の税率ならば個人事業主、それを超えるなら法人化したほうが良いというのがよく言われる法人成りの線引きです。ですが、個人事業を継続させつつ法人を両方持つ場合、この限りではありません。

ただし、法人と個人事業を両方持つ場合、事業内容を別のものにしないといけません。そうしないと、実質同じ事業とみなされて個人に課税されることになります。
別の事業内容と言うと難しそうですが、例えば、フリーランスのソフトウェアエンジニアだとして、開発は個人事業、運営は法人の事業にするというような分け方は可能です。1

マイクロ法人スキーム

会社員である場合、何らかの社会保険に入っていると思います。それがフリーランスになると社会保険には加入できず、国民保険に加入しなくてはなりません。社会保険と違い、国民保険では扶養という考え方がないため、、それぞれで保険料を払わなければならないということや、会社と折半ではないので全額払う必要があり金銭的負担が大きいというデメリットがあります。

そこで、マイクロ法人スキームというものがあります。まず法人を設立します。法人の種類は合同会社でも株式会社でもいいのですが、合同会社のほうが色々と緩く、設立費用も安くすむので、マイクロ法人としてのみ設立する場合は合同会社が選ばれる傾向にあるようです。

法人を設立すると、自分自身は役員という扱いになり、役員報酬を法人から役員個人へ支払うことで社会保険に加入する義務が発生します。つまり、個人事業のまま自分の法人を設立し、そこの役員になり役員報酬を自分自身に支払うことで、個人事業主でありならが会社役員ということになるため社会保険に加入することが可能です。社会保険と国民保険は排他的なため、国民保険に加入する義務はありません。
社会保険は会社と折半で支払うことになりますが、実質自分の会社であれば満額支払うのと変わらないでしょう。

さて、社会保険に入れるとなにが良いかと言うと、国民保険と違って扶養という考え方があるため、家族がいる場合は扶養に入れればその分保険料が浮くため保険料の負担が軽くなります。
また、自分の会社において、役員報酬は自分で決められます。ということは、社会保険料額の等級を下げられるということになります。
社会保険の保険料額の等級は標準報酬によって決まります。東京都は下記リンク先のようになっています。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r6/ippan/r60213tokyo.pdf

要は、稼げば稼ぐほど社会保険料が高くなる仕組みです。この等級は社会保険に加入している場合、自分自身の会社からの役員報酬によって決まります。つまり、役員報酬を社会保険の最低等級になるように支払えば社会保険はとても安く済む一方、個人事業の方で稼いだ分には保険料がかかりません。個人事業でいくら稼いでも社会保険料の負担は大きくならないということです。

例えば、個人事業で月額100万円の所得があるとします。この場合、国民保険だと月額7〜9万円弱ほどになるようで、年間で約90〜100万円超ほどになります。
一方で、マイクロ法人スキームの場合、社会保険の最低等級にするために月額約58,000円の役員報酬にすると、保険料は月額約5,800円です。年間で約7万円にまで抑えられます。
ちなみに役員報酬を45,000円にすれば、役員報酬での所得税0円かつ社会保険料は最低等級に抑えることができます。

マイクロ法人スキームとは、このように主に社会保険料を抑えるために法人を設立、運営することをいいます。個人事業の税率が30%を超えない場合でも法人を設立するメリットがあるといえます。
どちらにせよ社会保険料の負担分と税率を比較して考える必要があるので、税理士に相談することをお勧めします。

社宅制度

マイクロ法人に限らず法人があれば利用できる制度として、社宅制度があります。法人で賃貸契約を行い、それを役員や従業員に貸し出すことができます。
法人と個人で払う家賃は変わらないですが、法人で払う分の家賃は経費として計上できるため、法人の利益を減らすことができます。ひいては税金を減らすことができるため実質家賃が安くなるということになります。

何もしなくても家賃の5割は経費として計上できますし、住んでいるところの固定資産評価証明書を役所で取得して、きちんと算出すれば約8〜9割を経費として計上できます。
自分の場合、税理士に聞いたところ5割は経費計上できますと言われたので、固定資産評価証明書を使って計算してくださいと言いました。
また、固定資産評価証明書は建物の所有者、いわゆる大家しか取得できないので〜と言われましたが、実際には賃借人であれば取得できます。大家の許可なども必要ありません。たぶん税理士側からすると計算が面倒なんだと思いますが、3〜4割ほど経費が変わってくるので、面倒がらずに役所に行って書類を取得し、きちんと計算して経費にしてもらいましょう。

ただし、いずれの場合でも全額を法人で支払うと給与とみなされてしまうため、一定額は役員報酬から天引きするなどして個人で支払う必要があります。また、家賃を支払う先(大家さんなど)が法人での賃貸契約を受け入れてくれる必要があります。自分の場合、個人から法人への賃貸契約の変更は結び直しとなり、敷金は個人契約のときのものを法人契約の方に移管できましたが、家賃が数千円上がり新たに礼金を支払うことになりました。それでも節税効果のほうが高いためその条件を呑みました。

出張手当

法人は出張旅費規定というのを制定すれば、役員や従業員に出張手当を出すことができます。この出張手当は非課税で支給できるため、マイクロ法人のような1人法人であれば、法人から個人への資金の移動手段として利用できます。
あくまで出張手当なので、実際に出張する必要がありますが、法人の営業活動と結びつければそれなりに行ける人はいるでしょう。
ただ、あまりにも多額の出張手当は過去に裁判で否認されたケースもあるので、ググったり税理士に相談したりしていい感じの金額を設定するようにしましょう。
また、絶対にカラ出張などはやめましょう。追徴課税は怖いですよ。

マイクロ法人スキームのデメリット

もちろんメリットだけでないです。主なデメリットは法人の運営コストになります。
法人は赤字であっても約7万円の均等割というものは必ず払う必要があります。
また、帳簿付けや決算書の作成、税務申告などの手続きが必要になります。自分でできないこともないですが、個人事業と比べて圧倒的に難易度が高いため、できれば顧問税理士をつけるほうがいいと思います。
税理士に頼む場合は顧問契約をすると、安いところでも1〜2万円前後はかかるようなので、年12〜24万、法人税などの申告は別料金ということが多く、年間でまるっと大体30〜40万円ぐらいかかると思っておいたほうがいいでしょう。それでも社会保険料の節約分のほうが大きいですね。ちなみに自分は最初から顧問税理士をつけて記帳から申告まですべてお願いしています。

社会保険料の納付が少なくなるため、将来もらえる年金の額が下がるのもデメリットになります。もっとも、浮いた社会保険料の分をiDeCoやNISAに回すなどで自分で年金の代わりに運用を行うこともできるので、本当にデメリットかというとそうではないと自分は考えています。

株式会社ではダメなのか

これまで上げたようなものは株式会社でも実践できますが、株式会社だと1人法人であっても何かを行うたびに株主総会開催 + 議事録を作成する必要があったり、役員の任期があったりするため、なるべく手間をかけないということであれば合同会社のほうが楽だと思います。
また、設立費用も合同会社であれば最低約6万円あればできるのに対し、株式会社は20万円以上かかるため、初期費用を考えると合同会社です。
もちろん、外部から資金調達を考えている場合や上場を考えている場合、将来的に会社の売却を考えている場合は株式会社一択でしょう。やりたいことによって株式会社か合同会社かを選ぶのがいいと思います。

まとめ

フリーランスと合同会社(法人)について書きました。状況によっては会社一本でやっていくよりも、個人事業とマイクロ法人を併用するほうがメリットがあることがお分かりいただけたかと思います。
ただ、個人事業主の社会保険強制加入案なども出てきているようなので、未来永劫続けられるスキームではないかもしれません。それでも現時点では有効な手段であることは間違いないと思います。
用法用量を守って法人を設立しましょう。


  1. 自分は顧問税理士に相談した上で法人と個人事業をそういう分け方をしています。 ↩︎